無料の通話アプリは、通信キャリアの敵か味方か



Open Mobile Summit London 2012:
 スマートフォンの普及とモバイル通信の高速化で、モバイルユーザーはさまざまなコミュニケーションサービスを使えるようになった。利用者にとっての利便性は高まっているが、通信キャリアにとっては難しい面もある。これらのコミュニケーションサービスには、Skypeのように音声通話やメッセージという通信キャリアの事業と競合するものもあるからだ。
 通信キャリアのネットワーク上でサービスを展開するOver The Top(OTT)プレーヤー”は、通信キャリアにとって脅威なのか、それともデータ収益を加速させる付加価値サービスとなるのか。また、通信キャリア間の相互接続性を確保するリッチコミュニケーションサービス向けフレームワーク「RCS(Rich Communication Suite)」(GSMAが策定中)が、キャリアの窮地を救うことになるのか――。5月29日から2日間、英ロンドンで開催された「Open Mobile Summit London 2012」で、インターネットベースのサービスと通信キャリアの関係を考えるセッションが開催された。
 ディスカッションに参加したのは、Deutsche Telekom(DT)でコアテレコ担当シニアバイスプレジデントを務めるライナー・ドイチュマン(Rainer Deutschmann)氏、Qualcommシニアバイスプレジデントのアナスタシア・ラウターバッハ(Anastasia Lauterbach)氏、RebtelのCEOを務めるアンドレアス・バーンストローム(Andreas Bernstorm)氏、Orangeバイスプレジデントのダニエル・ゴロラ(Daniel Gurrola)氏の4人。モデレーターを務めたのは、Disruptive Analysis創業者のディーン・バブレー(Dean Bubley)氏だ。
●OTTプレーヤーは通信キャリアの敵か、味方か
 これまで、通話、メッセージサービスは通信キャリアの独壇場だったが、スマートフォンの登場で状況が変わり始めている。今やVoIPサービスは、さまざまなプレーヤーが提供しており、チャットやメッセージなどのサービスもFacebookをはじめとするソーシャルネットワークサービス内で提供されている。
 こうした新たなVoIP/メッセージサービスをネットワーク上で提供するOTTプレーヤーと、そのサービスを利用するユーザーは年々増えている。通信キャリアからは影響を懸念する声も挙がっており、欧州では、(通信キャリアに直接の収益をもたらさない)Facebookによるメッセージが、通信キャリアのSMSのトラッフィクに影響を与えている――というレポートもあるという。
 これまでのところ、OTTプレーヤーに対する通信キャリアの対応は受動的だったが、スマートフォンの普及が進むにつれて、より明確な戦略が必要となってきている。DTのドイチュマン氏は「白か黒かで割り切れる問題ではない」とし、OTTプレーヤーを競合としてのみ見るのではなく、協業の面からも見る必要があるという。協業の側面としては、通信キャリアによっては自社内でのイノベーションに限界があり、顧客に魅力的なサービスを提供するために提携が重要になっている背景があると説明する。
 Orangeのゴロラ氏は、OTTプレーヤーを閉め出す考えはないという姿勢を明確にしている。「OTTはイノベーションの方向性を示すものでもある。問題は、そのイノベーションをどうやって提供するか、イノベーションを届けることで、いかにわれわれがユーザーにとって身近な存在になるかだ」(ゴロラ氏)
 しかし、メッセージ系のサービスを提供するOTTは、通信キャリアのコア事業に影響を与えかねない。ゴロラ氏は「Orangeの顧客がコア事業の音声サービスを考えるとき、われわれではなくOTTを連想するようになることがよいことかどうか。ここ2年で真剣に考えなければならない問題になっている」と危惧ものぞかせた。
 通信キャリアのコア事業に影響を与えかねないOTTプレーヤーの1社がRebtelだ。同社はSkypeに次ぐ世界第2位のモバイルVoIPサービス大手。Rebtelのバーンストローム氏は「付加価値を創出するプレーヤーが、通信キャリアからサードパーティの開発者にシフトした」とし、ユーザーが求めるものと通信キャリアのサービスに対する考え方にズレが出始めているとみる。「通信キャリアは1カ所にすべての機能を揃えたいと思っている。だが、アプリストアが登場したことで、ユーザーは自分が好きな単一サービスのアプリケーションを複数集めることを望むようになってきている。これは通信キャリアのやり方とは大きく異なる考え方だ」(バーンストローム氏)
●新たなコミュニケーションフレームワークはキャリアの窮地を救えるか
 通信キャリア側にも、OTTへの対抗ともいえる動きが始まっている。業界団体GSMA(GSM Association)が標準化を進めているRCS(Rich Communication Suite)が、それだ(または、Rich Communication Suite-enhancedの“RCSe”ともいわれる)。異なる通信キャリア間で、メッセージのやりとりやファイル転送、プレゼンスの確認などを行えるようにするコミュニケーションフレームワークで、これまでの通話やメールなどのサービスを、さらにリッチで高度なものに進化させるイメージだ。
 RCSの重要性についてDTのドイチュマン氏は、「通信キャリアが手をこまねいていると、顧客がSkypeなどのOTTサービスを使い始めてしまう。われわれ(通信キャリア)も基本的なコミュニケーションサービスを提供しなければならない。顧客が通信キャリアに望むのは、今、利用しているサービスをもっと便利にするジョイントサービス。現在使っている通話サービスやSMSから他のサービスに移行することなく、リッチなコミュニケーションサービスが使えるようにしていく」と説明する。OTTプレーヤーが提供するサービスとの違いは相互運用性だけではない。「別途アプリケーションをオンにする必要なく、電源を入れればビデオ会議ができるような世界を目指す」という。
 通信キャリアは、これまで長い時間をかけて標準化を進めてきたが、業界全体の動きは早く、OTTの登場で、さらに素早い動きを迫られている。モデレータのバブレー氏は、「通信キャリアは効果的に協業できるのか、タイムリーにソリューションを提供できるのか?」と疑問を呈した。
 Rebtelのバーンストローム氏はRCSの構想には同意するが、標準化の作業に時間がかかりすぎると指摘する。「仕様の開発はきりがない。5、6年前までは、コンシューマー向けにどんなサービスを提供するかは、通信キャリア側が決めていたが、今やコンシューマーが“自分が使いたいサービス”を決定する“プル型”にシフトしている。サービスはコンシューマーが主導しており、通信キャリアが主導して策定していくのではない」(バーンストローム氏)。
 この1年RCSに関わってきたというDTのドイチュマン氏は、「通信キャリアの協業という点ではよいタイミング。最後のチャンスかもしれない」と述べる。Orangeのゴロラ氏は「RCSの推進には、まず、協業が不可欠。次にRCSの立ち上げにあたってIMSなどの資産が必要になり、そのために時間がかかる。投資サイクルは各社異なるので足並みが揃うのは難しい」と述べ、「業界の動きは速い。われわれ通信キャリアも素早く動かなければならないことも認識している」と補足する。「これまでと同じペースで進めていては遅い。だが標準なしにはNFCのようなサービスは実現しない」(ゴロラ氏)。
 通信キャリアの成長戦略について、バブレー氏がDTとOrangeに対し「Webコンテンツ分野に拡大していく可能性はあるのか」と尋ねると、両社とも検討していると答えた。Orangeはフランスの動画サービス「DailyMotion」に出資しており、DTはIPTVなどのメディア事業にチャンスがあると考えているようだ。DTは3月、クラウド戦略も発表し、法人顧客向けにクラウドを提供することも明らかにしている。
 「通信サービスだけなのか、市場を拡大するのか――どちらかに決めるのは難しい」とドイチュマン氏。通信キャリアが成長を続けるためには、自社製品やサービスを見直し、早急に新たなビジネスモデルを確立する必要がありそうだ。(プロモバ)
[末岡洋子,ITmedia]
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by pachifu | 2012-06-09 03:16